思い出話
何年も前のこと
「部下が結婚する、式の余興で流す動画を撮りたい」
という依頼が来た
その日はクリスマスだった
誰かといる予定もなかったし仕事もなかったから受けた
いざ会った依頼主は肩幅の合わないスーツを着ていた
「その娘は刑務所の受付で働いている。キミは彼女が退勤したらすぐに声をかけてくれ、『いつも友達の面会に来ているんですが、実は気になっていたんです、あなたはとても素敵だ』とかなんとか言って、そしたら彼女は困惑するだろう、そこで彼女は断るんだ、『夫がいますので』って、そんな動画だよ、盛り上がるよな」
頷いて、帰路につく彼女に声をかけた
思いのほか話が弾んだ
音楽の話だったかな
たしかボブ・マーリーが好きだった
そのうち上司が出てきた
「誰だ君は、私は所長だ」
頷いて、そのまま地下鉄に乗った
口座には10倍の金が入っていた