右手にピストルを左手にタンバリンを

札幌の劇団「yhs」に所属する櫻井保一のブログ

3/6、待ってる夢、日が落ちた

親は共働きだった。保育園に通っていた頃はいつも最後まで残って、玄関の前でしゃがんだまま、母の迎えを待っていた。そんな、おぼろげな記憶でしか残っていない景色を、夢の中でみた。

 

あんまりじっと動かないままそこにいるもんだから、心配した先生が職員室に呼んで、おやつのチョコをこっそりくれたこともあった。それが嬉しかったのは覚えてるけど、先生の顔も名前も思い出せない。

 

子どもたちと芝居作りをしているからだろうか、そんなことが夢に出てきたのは。でも彼らは小中学生だしな。

 

前に実家帰ったときに聞いた話。母は朝も早かったので、いつも保育園が開いて早々に預けられていたんだけど、着くのが早すぎてまだ開いてなかった日があったらしい。仕方ないので、鍵の閉まった玄関の前に、俺を置いて行ったみたいで。

 

その後、ポツンと玄関の前にいる俺を出勤してきた先生がみつけて大慌て。んで、母はがっつり怒られたって、そんな話を笑いながらしてた。そのことは覚えてないんだけど、母さんらしいなと思って一緒に笑った。

 

夢の中の俺はもう大人で、あぐらをかいてタバコをふかしながら外を眺めていた。今の身体の大きさには似合わない、やけにカラフルで、小さな下駄箱の横で。目が潰れるほど真っ赤な夕日が射していた。今ならあの距離も、なんてことなく歩いて帰れるのに。一体何を待っていたんだろう。

 

結局、迎えはこなかった。

 

そんな夢を見た朝はやけに瞼が重く、喉もカラカラになっていたので、ビールを開けて口につけた瞬間、あぁ今日は仕事だったと気が付いた。代わりに冷たいコーヒーを一気に飲んだから、身体が余計に冷えた。

 

新しく買ったブーツはまだ硬くてスネが痛い。辛いミートソースをなめながら薄いビールが飲みたい。洗ったばかりなのにつむじが痒くてイヤだな。雪が解けたら走ろう。やっぱりやめよう。

 

そんなことを考えながら仕事に向かった。いつもの道を、いつものペースで。いつもと違ったのは、すれ違った老人が言った「未熟児の、一頭、死んじゃった」という言葉に、すこし悲しくなったことくらい。

 

夜になった今も、夢で見たあの景色が頭にこびりついて離れない。

 

通っていた保育園は、今はもうないらしい。